続・ペンと乳(34) 仕事復帰(下)

綱渡り 記事出稿の舞台裏

 私が所属している文化生活部の記者が書く記事のほとんどは、新聞の「くらし面」というページに掲載される。くらし面は、掲載の数日前に記事を出稿し、編集作業に入るため、時間に余裕を持って仕事ができる。だが、その日あった出来事を翌日の新聞に載せる場合もある。そういう記事は、上司のチェックを受けて完成に至るのが、どうしても夕方以降になってしまう。

 翌日の新聞に載る記事を書いた日。午後5時の保育所に迎えに行く時間になっても、まだ記事を上司にチェックしてもらえていない状態だった。不安を感じながら子2人を連れ帰り、いつ電話が鳴ってもいいように仕事用携帯を風呂場に持ち込み、2人の入浴を済ませた。その後、急いで夕食を準備し、食べ終えたのが午後7時すぎ。ちなみに夫は不在だ。

 原稿チェックの電話が上司から入った。締め切り時間が迫っている。取材ノートと照らし合わせて、記事の内容に誤りがないか確認する。とても集中力が必要な作業だ。だが、3歳と1歳はお構いなしに私にまとわりついてくる。それに、パソコンのキーボードをめちゃくちゃにたたいて、画面がフリーズ。これでは作業ができない。

 別室に移りパソコンを開いてみるが、子らは目ざとく母を追ってくる。息子(1歳)は体によじ登ってくるし、娘(3歳)は自作の変な歌を大声で歌って踊っている。そんな環境下で上司に電話をかけ、記事の修正部分について一生懸命伝えようと試みていたその時、娘が小さな声で「おしっこ…」とつぶやいた。

 いったん電話を切ってもいいが、締め切り時間が近く、早めに伝えてしまいたい。電話を耳と肩に挟んで上司と会話を続けながら、娘をトイレへ連れて行く。息子は左腕に抱きかかえ、娘をトイレへ座らせ、済んだら拭いてやるという「究極のマルチタスク」を決行した。もはや、何が何だかわからない状況だった。

 それでも原稿は無事に完成し、翌朝の新聞に何事もなかったように掲載された。よかった…。新聞を眺めながら、記事が完成するまでの舞台裏を思い返し、しみじみとした。

2021年3月27日 無断転載禁止