政治家の言葉

 「今太閤」と呼ばれた故田中角栄元首相の政務秘書を長く務めた政治評論家・早坂茂三さん(故人)の話術は独特だった。かつて松江で講演があった際、宿泊先で取材して実感した。印象に残っているのは助詞の省略。「田中、言った」といった具合▼昔のNHK大河ドラマ『武田信玄』(1988年放送)も助詞を抜いた台詞(せりふ)が多かった記憶がある。主役の中井貴一さんらに助詞抜きの言い回しをさせることで戦国武将のりりしさを表現したようだ▼比較してしまうのが最近、話題になった政治家の話し方。「皆さん、わきまえておられて」も「知事を呼んで注意をしっかりしなきゃいかんな」も言い回しは穏当だが、上から目線に感じるのは筆者だけだろうか▼早坂さんによると、田中元首相は「駕籠(かご)に乗る人、担ぐ人、そのまた草鞋(わらじ)を作る人」の言葉を好んで使ったという。出典には諸説あるが、世の中が回る仕組みを言い当てている。コロナ禍の今は、社会や経済を回す駕籠を担ぐのがソーシャルワーカー、草鞋を作るのは苦境にあえぐ生産者に例えられる▼高い場所からは、地面を這(は)う働きアリの苦労は見えにくい。田中元首相がすごいと思うのは、担ぎ手や作り手まで意識していた点。その下で辛抱を重ねて独立した故竹下登元首相の「汗は自分でかきましょう。手柄は人にあげましょう」も含蓄がある。政治家の姿勢は言葉ににじみ出る。(己)

2021年2月23日 無断転載禁止