音楽トリビア26の秘密 秘密(21)ドボルザーク「新世界より」

 皆(みな)さん、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

 東京でオーケストラのホルン奏者(そうしゃ)をしていたころ、年末にはベートーベンの「第九(だいく)」、新年明けるとドボルザーク(1841~1904年)の第9交響曲(こうきょうきょく)「新世界より」をよく演奏(えんそう)しました。「新」が付くので、ニュー・イヤー・コンサートにふさわしいと考えられていたんですね。

渋々だったアメリカ行き

 「新世界より」の新世界とは「アメリカ」のことです。

 チェコの作曲家で、すでに教育者としても国際的(こくさいてき)な名声があった50代のドボルザーク。1892年、新興国(しんこうこく)アメリカのニューヨークに「ナショナル音楽院」が新設(しんせつ)され、その院長として招(まね)かれたのです。なんだか乗り気がしなくて、渡米(とべい)は渋々(しぶしぶ)でした。彼(かれ)の予感は的中。極度(きょくど)のホームシックにかかってしまいました。

チェコへの望郷から生まれた名曲

 でも彼は、なんと強い望(ぼう)郷(きょう)の念を交響曲にしてしまったのです。だから「新世界より」とは、アメリカ「より」故郷(こきょう)への思いがつづられた曲なのです。そこで耳にした、黒人霊歌(こくじんれいか)やインディアンの民謡(みんよう)が、故郷のチェコ民謡にとてもよく似(に)ていたことも作曲の動機となったようです。自然発生的な民謡がもとになっているので、多くの人々に親しまれる名曲となったのでしょう。

 曲は全4楽章(がくしょう)で、約45分間の長い曲です。第1楽章は夜明け前のような雰囲気(ふんいき)で始まります。次第(しだい)に明るくなり、親しみやすい旋律(せんりつ)が次々と現(あらわ)れ、ワクワクさせられます。

 ドボルザークが世に出るきっかけは、8歳(さい)年上のすでに巨匠(きょしょう)となっていたブラームス(1833~97年)に認(みと)められたからです。そのブラームスが「ドボルザークのごみ箱をあさったら、すぐに交響曲が一曲書ける」と言ったという逸話(いつわ)が残っていますが、まさにそのように感じます。

左のQRコードからイングリッシュ・ホルンの演奏(大西(おおにし)幸生(みゆき)さん独奏(どくそう)、広島交響楽団提供(こうきょうがくだんていきょう))が視聴(しちょう)できます。
 第2楽章は、金管楽器の柔(やわ)らかな序奏(じょそう)に続くイングリッシュ・ホルンの郷愁(きょうしゅう)を誘(さそ)う美しい旋律がことに有名です。皆さんがよく知っている「家路(いえじ)」とか「遠き山に日は落ちて」など、歌詞(かし)を付けて歌われていますね。

 第3楽章は、踊(おど)りだしたくなるような軽(かろ)やかな曲です。皆さんもよく知っている打楽器「トライアングル」が大活躍(だいかつやく)しますよ。

故障も気付いた鉄道オタク

 第4楽章冒頭(ぼうとう)は、蒸気機関車(じょうききかんしゃ)が走り始める様子だと、あるチェコ人指揮者(しきしゃ)から聞きました。

 実はドボルザーク、大変な鉄道オタク。チェコの首都プラハに住んでいるころ、プラハ中央駅に出かけ、列車を眺(なが)めるのを日課としていました。そこで機関車のいつもと違(ちが)う音を聞き取り、故障(こしょう)を言い当てるという、いかにも音楽家らしい逸話も残っています。

 第1楽章に出てくる旋律が、第2、3、4楽章にも形を変えて出てきます。とても分かりやすく、退屈(たいくつ)しないと思うので、ぜひ聴(き)いてみてください。

 交響曲で他によく演奏されるのがベートーベンの第5交響曲「運(うん)命(めい)」、シューベルトの「未(み)完(かん)成(せい)交響曲」で、「新世界より」とで「三大交響曲」といわれています。

(プラバホール芸術監督(げいじゅつかんとく)・長岡愼(ながおかしん))

2021年1月6日 無断転載禁止

こども新聞