地域のために

 「地域のために」と口にするのは簡単だ。ただ、自分と地域が不可分な存在という自覚がないと、相手には響かない▼5日に81歳で亡くなった安来商工会議所名誉会頭で、山陰酸素グループの並河勉会長は晩年、社員に地域貢献を強く説いた。グループ内12社2組合の事業から理由は推察できる。ガスの製造販売をはじめ、冷凍食品の製造販売、自動車販売、地ビール醸造と幅広いが、大半が地元との取引。従業員約1600人と山陰屈指の企業体でも、地域をおろそかにしては仕事が成り立たない。並河氏はそう自覚していたのだろう▼山陰が生き残る道は経済の域内循環とも主張した。地元卸を相手にしない全国流通チェーンや外食産業に席巻されては地域はお金を中央に吸い取られ疲弊するだけだ、と東亜青果社長だった盟友の故秦野一憲氏と声を上げた。「地域でお金を回そう」との思いは地元のメガソーラーやバイオマス発電施設をつなぐ地域電力会社になった▼江戸期から続く安来の商家に生まれたが、若い頃にビジネスの腕を磨いたのは中東。松下電器産業グループの貿易会社でメード・イン・ジャパンを売ったその視座は独特だった▼安来市街地に今も残る生家は島根県指定有形文化財。1783年、天明の大飢饉(だいききん)に苦しむ人たちに仕事を与え救済する「お助け普請」で建てられた。なるほど。並河家の「地域のために」は、重みが違う。(示)

2020年9月12日 無断転載禁止