魂の叫び

 ムンクの「叫び」は、描かれた人物が叫んでいるのではなく、自然の叫びに恐れ耳をふさぐ様子を描いている。恐怖や不安といった人間の内面を表現し、見る人の心を揺さぶる▼最近、ムンク同様に畏怖を感じる作品に出合った。正規の美術教育を受けていない人や障害がある人による独創的な作品のアール・ブリュット(生の芸術)で、アウトサイダー・アートとも呼ぶ。この自由に創作する作家たちをNHK・Eテレ「ノーアート、ノーライフ」が紹介している▼カラフルなボタンをいくつも縫い付けた布製オブジェ、チラシや雑誌の切り抜きをのりで何層にも重ねた立体物、畳2畳分のキャンバスに繰り広げられる妄想や幻覚の世界、唾液で壁紙をはがし描かれた壁画…。福祉施設やアパートで生まれる独創的な数々に圧倒される▼「精神的にやられると絵を描き始めるんですよね、人間って。心の底からこみ上げてくる」「今まではリストカットで自分の存在を確かめていた。絵に出合ってからは絵がその手段になった」。学校、仕事で挫折し、入院や引きこもり生活を経て創作を始めた作家たちは生への渇望、衝動を作品にぶつける▼社会の枠組みにはまれない苦しさ。行き場のない感情。既存の概念にとらわれない表現からは声にならない魂の叫びが聞こえてくる。生きるとは。人とは。多様な価値観を前に、自分の「正しさ」も揺さぶられる。(加)

2020年9月11日 無断転載禁止