世事抄録 「故郷を訪ねたい」

 「傘がない」という井上陽水の歌がある。自殺する若者が増えた現状と雨が降るのに傘がない、二つの問題から始まる。自分では解決できない問題とできる問題があり、愛という答えのない問題に歩きだす。人はいろんな問題に包まれている。

 この夏、自治体から不要不急の外出は控え、帰郷は家族で考え、感染と帰郷の責任は個人の問題として投げられた。盆の墓掃除、仏壇の親や山河に会いたい私に、帰郷時に感染していないと言えるかと問う友がいて、今でなくてもと慰める友もいた。突き詰めれば、感染に関係した場合、背負う自己解決できない社会関係のリスクを心配してのアドバイスで、私も帰郷をやめた。

 確かな治療法のない今、感染が起きれば県外者や感染者捜しから排除、誹謗(ひぼう)中傷や差別へと向かうこともある。注意すべきことは、個人の意識だけが問題ではない。長い歴史の中で出合う文化と共に排除の文化も形成してきた。そんな社会構造も感染者捜しの基盤をつくり、流れたうわさを消し難くする。

 問題には個別で専門的なものもある。医療の問題は専門家に任すしかない。だが感染問題は個人の問題だけでない。差別を含め国や自治体の在り方、進む姿勢の問題として捉え、実行しなければならない。移動者も生活の場と同じで行き先でも厳しく律することが大切だ。私も傘を差し(最善の準備)、君(島根)に会いに行きたい。

 (埼玉県在住、島根県奥出雲町出身・鬼灯)

2020年9月3日 無断転載禁止