世事抄録 パンデミック

 新型コロナウイルスの世界規模のまん延が続き、この半年、列島はコロナの暗雲に覆い尽くされた。少し収まったものの第2波の襲来も予想され、一刻も早い治療薬やワクチンの開発が待たれる。

 自粛中は時々DVDを借りて楽しんでいた。この一本には驚かされた。映画通なら旧聞かと思うが、2011年公開でマット・デイモンらが出演した「コンテイジョン」(ワーナー・ブラザース)。

 題名は感染を意味する。香港でコウモリから発生した未知のウイルスが豚から人間に感染。次々とパンデミック(世界的大流行)を起こしていく恐怖を描く。世界規模でパニックが起きる中、医療従事者たちも次々と倒れる。必死でワクチン開発を急ぐ研究者たち。9年後の現実と驚くほど重なる。不条理な状況下の人間の生き方までも浮かび上がってくる。

 直後に読んだ週刊誌に京大名誉教授の佐伯啓思さんの興味深い特別寄稿が載っていた。現代社会が多面的な価値を認めない一元的な価値観に振り回されてきたと佐伯さんは分析する。

 現代社会は本来、不条理のはずの死も科学的統計主義で排除できると思い込んできた。コロナで死を身近に感じてパニックに陥った。「コロナは死を前提にどう生きるかを改めて我々に問うた」と佐伯さんは警鐘を鳴らす。

 散歩中、お寺の門前の一文が目に留まった。「ペストと闘う唯一の方法は誠実さということです。つまり自分の職務を果たすことだと心得ています」。(カミュの「ペスト」より)。カミュの不条理への問い掛けは今にも通じる。

(出雲市・呑舟)

2020年7月9日 無断転載禁止