新型コロナ特措法/乱用は許されない

 新型コロナウイルスの感染拡大に対応するため、「緊急事態」を宣言して私権を制限できる新型インフルエンザ等対策特別措置法の適用対象に新型コロナ感染症を加える改正法が成立した。

 首相が緊急事態を宣言した場合、都道府県知事は住民に不要不急の外出の自粛を要請したり、学校の休校、社会福祉施設や映画、スポーツなどでの施設利用の制限を要請・指示したりすることができるようになる。臨時の医療施設開設のため民間の土地や建物の強制使用もできる。憲法が保障する個人の権利の制約につながる強い権限だ。

 立憲民主党などの野党は、緊急事態宣言には国会の事前承認を必要条件とする法案修正を求めたが政府、与党は拒否。「国会への事前報告」などを盛り込んだ付帯決議の採択で折り合い、立民なども改正に賛成した。

 法案担当の西村康稔経済再生担当相は国会審議で、事前報告について「時機を失することなく丁寧に説明する」と述べた。だが、付帯決議に法的拘束力はなく、私権を制限する強権の発動に対する歯止めは十分とは言い難い。緊急事態宣言の前に国会でしっかりと審議すべきで、強権の乱用は許されない。

 感染はどこまで広がるのか、現時点で見通すのは困難だ。安倍晋三首相は「最悪の事態も想定しながら、国民生活への影響を最小にする」と法改正の必要性を強調した。

 政府の専門家会議は9日に「爆発的な感染拡大には進んでおらず、一定程度は持ちこたえている」との見解を発表した。その後、世界保健機関(WHO)が「パンデミック(世界的大流行)」と表明したが、安倍首相は14日の会見で、直ちに宣言を出す状況ではないと述べている。

 新型コロナ感染症への適用は暫定的な措置で、政府は政令で適用期間を来年1月末までと決めた。緊急事態を宣言せざるを得ない状況は、封じ込めに失敗した事態だとも言える。そうした状況に陥らないよう、政府は拡大防止に全力を尽くす責務がある。

 特措法の問題点の一つは、緊急事態宣言発令の要件が曖昧な点だ。要件は「国民の生命、健康に著しく重大な被害を与える恐れ」がある感染症の「全国的かつ急速なまん延で、国民生活、国民経済に甚大な影響を及ぼす恐れ」がある場合と規定する。しかし、どんな症状が「著しく重大」で、どういう事態が「急速」で、影響が「甚大」なのかの認定は政府に委ねられる。

 それに対して私権制限の権限は強い。土地や建物を強制使用したり、医薬品や食品を所有者から収用したりする権限があり、収用に応じない場合の罰則規定もある。

 安倍首相はこれまで法的な根拠がないまま大規模なイベントの自粛や小中高校などの全国一斉休校を要請。多くのイベントが自主的に中止・延期となり、休校も実行されている。特措法に基づく強い要請や指示となれば、国民の行動はさらに制約され、社会の閉塞(へいそく)感は強まり、経済活動にも一層の影響が出るだろう。

 安倍首相は休校要請の際、専門家に諮らなかった。非常時の対応では、国民が納得できる科学的根拠を明確に示すべきだ。政治判断の事後の検証も不可欠だ。その結果責任は当然、全て安倍首相が負わなければならない。

2020年3月16日 無断転載禁止