世事抄録 備えあれば憂いなし

 夏から秋色に染まっていく9月の風情は格別であるが、やっかいな台風シーズンでもある。

 昭和30年代、台風銀座といわれた東シナ海に面した高台で、古い一軒家に住んでいた。台風の予報が出ると、父が板を雨戸に打ち付け、母は子ども4人それぞれのリュックに食料と着替えを入れ、かっぱと長靴をそろえた。私たち兄弟は、遊び道具や、植木鉢など外回りのものを家の中に入れ、宿題を早めにやることを義務付けられた。波状的に襲う暴風は悪魔の声。家は左右に揺れきしんだ。停電の夜半に家族で一カ所に集まり過ぎさるのを待った。

 あの時のいつ崩壊するかという恐怖を今も思い出す。今年8月の台風10号はいのしし年らしく猪突猛進で中国地方に向かってきた。目の前に山と川があるわが家はハザードマップでは土砂を示す斜線と、浸水を示す水色に沈んでいる。

 予報が出ると毎回、二つのリュックに貴重品、食料、着替え、降圧剤など薬の類を入れ、かっぱ、長靴をそろえる。植木鉢を中に入れ、物干し台を倒し、車を安全な場所に移動する。準備万端、お茶をすすりながらテレビで行方を見守る。用心のために山と反対側にある2階の部屋で就寝するが、動向が気になりなかなか寝つけないのが常である。

 ありがたいことに、たいてい何事も起こらない。今回も被害はなかった。骨折り損ではない。老夫婦2人、これでよいのだ。

(浜田市・清造)

2019年9月12日 無断転載禁止