フードと風土

 年齢とともにご飯のお代わりをしなくなった。江戸時代の儒学者、貝原益軒が『養生訓』で説いた「腹八分」を心掛ける。若い頃には、1日に3合食べていたこともあるが、今は昼と夜に茶わんで1杯ずつ程度。合わせてもコメ1合分(約150グラム)だ。おまけに時々は麺類にする▼農林水産省が発表した2018年度の食料需給表によると、コメの供給量は1人当たり年間53.8キロ。1日に換算すると約1合分。1965年度の111.7キロから半減した。肉類や乳製品が伸びる一方、コメ離れが進んでいる▼詩人の宮沢賢治は「雨ニモマケズ」で「一日ニ玄米四合ト 味噌ト少シノ野菜ヲタベ」と書いた。昭和初期の食生活がうかがえる。戦後の食糧難時代には、この詩を教科書に載せる際、「四合」は贅沢だと「三合」に書き換えられた逸話も残る▼カロリーの大半をコメに頼り、味噌などの発酵食品と野菜を中心に魚介類を加える、日本の風土の中で培われた伝統的な食生活。が、今は一変。コメ離れとともに、カタカナ料理の増加に象徴される食の欧米化と栄養素の重視、さらに外食とコンビニなどの「中食」が普及し、食の外部化・簡便化が進む。コメの消費も約3割は中食と外食に頼る▼世界の多様な食材や料理があふれる暮らし。一方で「フード(食べ物)から風土が薄れた。やがて家庭も…」との懸念も聞く。もう1杯食べようかな。(己)

2019年9月7日 無断転載禁止