政治家の進退

 通算在職日数が昨日、佐藤栄作元首相を抜いて戦後最長の2799日となった安倍晋三首相。11月19日には歴代最長の桂太郎元首相の2886日に並ぶ。いずれも旧長州・山口県の出身というのも何かの因縁か▼一方、在職日数はわずか65日だったものの、言論界出身の石橋湛山(たんざん)元首相は、進退を巡る決断で昭和の政治史にその名を刻んだ。石橋は首相としては国会で一度も演説や答弁をしないまま1957年2月に退陣。後任には安倍首相の祖父・岸信介元首相が就いた▼石橋と岸は前年12月の自民党総裁選で対決した間。1回目の投票で1位だった岸に対し、決選投票で石井光次郎(元法相)と2、3位連合を組んだ石橋が僅差で勝利した。しかし石橋は直後の精力的な全国遊説も影響して軽い脳梗塞で倒れ、国会での予算審議を前に2カ月の入院を宣告される▼すると石橋は責任感から退陣を表明。党内融和のため外相で入閣していた岸に首相の座を渡した。潔さが喝采を浴びた石橋だが、一方で異論もあったようだ。米国寄りの岸に対する対立軸として2、3位連合を組んだ期待を裏切る結果になったからだ▼自らの政治的良心に従うか、支持者の期待を大事にするか。政治家の進退判断は難しい。石橋が首相の座にとどまっていれば、3年後の日米安保条約改定は違った形になっていたかもしれない。立場が重くなるほど引き際にも責任が伴う。(己)

2019年8月25日 無断転載禁止