レッツ連歌(要木木純)・8月22日付

(挿絵・Azu)
◎行ったきりにて誰も帰らず
東京がどうしてそんなにいいのだろう
               (出雲)岩本ひろこ

◎電話で聞かれる暗証番号
なんとなくフッと浮かんだ語呂合わせ
               (松江)河本 幹子

◎ボクは将来お笑いに行く
契約書だけはきちんと作りなさい(益田)石川アキオ

◎そろそろけりをつけるときかも
二十年着られずじまいのワンピース
               (出雲)野村たまえ

添え書きをすることもない年賀状(雲南)錦織 博子

千年も前の女が忘られず    (出雲)行長 好友

◎小路に入れば芸術家あり
一晩でクモのお城ができあがり (松江)岩田 正之

◎落選したらただの人です
街角ですれ違っても会釈なく  (出雲)石飛 富夫

◎無礼講では油断大敵
笑ってたヤツが今朝から席がない(益田)可部 章二

殿様と知らずに乗った渡し船  (米子)板垣スエ子

◎こんなところで尿意催す
山奥で熊に出くわし死んだふり (松江)小谷由紀子

あれやこれ頭を巡る善後策   (松江)田中 堂太

◎伝言をする閻魔大王 
グレーゾーンすべてアウトで処理します
               (浜田)酒井 由美

◎戻ろう十五の夏のあの日に
尺玉のとどろく音に握った手  (松江)本田 文夫

◎なかなか取れぬ鼻毛一本
やめなさいといわれて余計むきになる
               (出雲)栗田  枝

ここかしこ年取るにつれ白くなり(江津)岡本美津子

◎一つの愛を育てられずに
わかるかいモテる男はつらいのよ
 

               (出雲)はなやのおきな

◎ポーズ決めてる仏壇の前
お母さんこれから見合いに行ってくる
               (松江)持田 高行

◎三途の川はインスタ映えする 
針の山初登頂に成功し     (美郷)芦矢 敦子

脱衣婆(だつえば)と亡者(もうじゃ)達とがはいポーズ
               (大田)尼子 美久

◎知らぬふりして知ってる先生
三十年経って今頃いわれても  (出雲)岡  佳子

◎服だパーマだ靴だバッグだ
避難指示でてるぞ俺について来い(松江)高木 酔子

◎こんな所に日本人が
ド田舎へユーは何しにやってきた(出雲)吾郷 寿海

アメリカのお化け屋敷にお岩さん(江津)井原 芳政

◎晴釣雨飲春夏秋冬
月月火水木金金土日なし    (美郷)吉田 重美

おしゃべりと食べ放題に行く女房(松江)川津  蛙

◎時々届く着信の音
おいそれと入れてもらえぬ午前様(江津)花田 美昭

補聴器を外したことをもう忘れ (浜田)勝田  艶

◎一筋縄でいかぬ米中
賭け事はトランプ麻雀お手の物 (松江)中藤 俊雄

           ◇

 小説や漫画の作者が、登場人物設定のために、発表作品の何十倍もの分量のノートを作るという話を聞いたことがあります。つまり、ある作品の背後に、作者だけが知っていて、読者が知らない広大な世界が隠されており、作者は時々それを漏らして、読者の興味を引き立てるのです。今回は、裏に隠れた大きな物語がありそうな付句を多く選んでみました。冒頭のひろこさんの付句は、なぜ「東京」?、なぜこの人は「どうしてそんなにいいのだろう」という感慨に似た疑問のことばを漏らすのか、どのような人生経験や出会いがあったのかなど、文字数が限られているからこそ、読者の頭の中では、この付句の背後にあるものについて、いろいろな想像が膨らんでいきます。その想像が、必ずしも作者の意図したものと一致しなくてもいいのです。連歌を読む楽しみの一つですね。

 次は、今回の入選句を前句にして、七七を付けてください。

(島根大教授)

2019年8月22日 無断転載禁止

こども新聞