レッツ連歌(下房桃菴)・6月13日付

(挿絵・麦倉うさぎ)
 ケータイやスマホが普及していちばん変わったことは、「電話口」がなくなったことではないでしょうか。消えてなくなったわけじゃありませんが、「電話口」ということばは、ほとんど死語になりました。

 念のため申しますと、「電話口」とは、電話で話している、そのかたわらのこと。そこには通話している当人以外のだれかがいる、という含みがあります。

 固定電話しかなかった時代には、たとえば彼女の家に電話を入れても、親父(おやじ)が出たらどうしようとハラハラドキドキしたものです。運よく彼女が出たところで、だれが聞き耳を立てているか分からないから、迂闊(うかつ)な会話はできません。彼女のほうも気が気でない。…とにかく、うっとうしい時代でした。

 それが今では便利な世の中になりまして、彼女の家に電話するなんてマヌケは一人もおりません。長生きはするもんだナと、…なんで私が感激しなきゃならんのか。

           ◇

 女房の物言いがつく電話口

はてさて何の記念日だったか   (米子)佐々木浩子

見るに見かねて出す助け舟    (松江)岩田 正之

ステーキ食べに連れていくから  (松江)本田 祥子

あきらめ切れぬ古伊万里の壷   (益田)石川アキオ

外で叱られ内で叱られ      (米子)板垣スエ子

僕もスマホを買ってほしいな   (松江)澄川 克治

ワタシチュコクニカエリマスカラ

             (熊本・天草)龍石美和子

取り直しする旅のチケット    (益田)黒田ひかり

勤務先からムード音楽      (江津)花田 美昭

いまだにLINE使いこなせず  (松江)小谷由紀子

よくぞここまでもったアイツら  (益田)吉川 洋子

空気の読めぬ万歳三唱      (浜田)勇 之 祐

指示待ち暮らしも楽なもんだね  (松江)森  笑子

ムカッときてもグッと抑える   (松江)木幡  允

その権幕にポチもたじろぎ (兵庫・明石)折田 小枝

任せたかぎりすべて任せよ    (出雲)栗田  枝

いまさらどうにもならぬ契約   (美郷)源  連城

田舎の母がまたやって来る    (安来)根来 正幸

いつもと同じ令和元年      (松江)山崎まるむ

出世の夢はこれでオシマイ    (雲南)錦織 博子

特上のすし並に変更       (浜田)勝田  艶

猫の名前が明美ですって     (松江)水野貴美子

釣れないわりに高いエサ代 (沖縄・石垣)多胡 克己

一年分も青汁あるのに      (松江)高木 酔子

なにもつけずに風呂を飛び出し  (江津)江藤  清

孫のおしゃべり独り占めして   (江津)花田 美昭

勝手になさいで終わりゃ大吉   (益田)可部 章二

           ◇

 美和子さんの国際結婚(離婚?)、おみごとです。ことに、「チュコク」というところ―。このことば一つで、「ワタシ」や「カエリマス」まで、不自然な発音に聞こえてしまうから不思議です。

 美昭さんの句は、残業というウソがバレたのでしょうが、「残業」とも「ウソ」とも「バレた」とも言わずにそれを分からせるテクニックがすばらしい。

 貴美子さんの句は、どういう状況なのか、よくは分かりませんが、それでも笑ってしまいます。猫の名前に「明美」は、ちょっとありそうにない。ぜんぜんありそうにない。

 章二さんの「大吉」―。それが大吉かと最初は思いましたが、よく考えると、たしかに大吉でした。身につまされます。

           ◇

 次の前句は、

  迷ったときはやるほうを取れ

 それでうまく行くことが多いような気がします。うまく行かないことも多いけれど…。

 この句に、長句(五七五)を付けてください。

 (島根大名誉教授)

2019年6月13日 無断転載禁止

こども新聞