ペンと乳(46) 歩いた!

感動の“誇らしげな笑顔”

 1歳5カ月になる直前のある晩。いつものように伝い歩きをしていたわが子に少し離れたところから「おいで!」と両手を伸ばしてみた。すると壁から手を離し、よたよたと、おぼつかない足取りながらこちらに向かって「歩行」を始めたのだ。2カ月前に「初めの一歩」が出てから、満を持しての「あんよ」を見せてくれた。

 周りを見渡すと、1歳になる前に歩けていた子もいれば、わが子より後に生まれたのにもう上手に歩いている子もいた。成長はそれぞれと分かっていながら「本当に歩けるようになるのか」と不安になる日もあった。そんな親の気持ちをよそに、子は着実に自分のペースで成長していた。あの晩の、誇らしげではにかむような笑顔は、死ぬ時に思い返すに違いない。それくらい印象に残っている。

 一度歩けることが分かると、座った状態から床に手をついて「よいしょ」と立ち上がり、歩き始めるようにもなった。ただ、急いだり、慌てたりすると伝い歩きや「お尻歩き」だ。そのほうが速いと本人も分かっているのだろう。

 子が歩けるようになって以来、街ゆく大人がスタスタ歩くのを見ていちいち感激してしまう。あのおじさんも、あのお姉さんも、初めて歩いた日があったんだ。その日はきっと、家族が手をたたいて喜んだのだろう、と勝手に想像し、勝手にウルウルしている。

 トイレもそうだ。まだオムツばかりのわが子と接していると、自分が用を足せるのに感動する。いつからこんなに上手にトイレに行けるようになったのかと。食事も、しっかり自分の手で箸を持って食べられる。いつの間に習得したのか。

 こんなことを考えるようになったのは、間違いなくわが子のおかげ。きっとこれから当たり前になるわが子の「歩行」にも、初めての日があったんだよ、その時の顔は本当にすてきだったよと、いつか本人にも伝えたいと思う。

2019年6月8日 無断転載禁止