消費増税に牽制球

 島根県の恒松制治元知事は経済学者だったが、財政学に関する著書も多い。知事を辞めた後、あるシンポジウムで日本が多額の借金を抱えていることについて聞かれ「政府の借金は、国民の右のポケットから左のポケットにオカネを移しているだけなので心配しなくてもいいという意見もあるが…」と前置きした▼「左右ポケット論」に恒松氏が与(くみ)したわけではなく、財政赤字を容認する考え方が専門家にもあることを指摘したかったのだろう。そのポケット論が学問的意匠を凝らして米国から日本に「上陸」し、先の国会質疑でも取り上げられた▼自国通貨で借金できれば、財政赤字恐るるに足らずというのが基本的論旨。国の借金である国債の大半は国民の誰かの負債が誰かの資産になっているので、差し引きすればチャラと説く。MMT(現代貨幣理論)と呼ばれ、米国では論争が起きているという▼国会答弁で安倍晋三首相は「わが国ではこの理論を実行しているわけではない」と否定したが、内心まんざらでもなさそうだったという▼振り返ってみれば消費増税が延期されるたびに、増税に批判的なこの手の学説が米国から手を変え品を変え「指南役」のように送られてくる。今回の理論も今年10月の消費増税に対する牽制(けんせい)球かと勘ぐりたくなる。地方財政に造詣が深かった恒松氏なら「眉唾だよ」と泉下で警戒しているかもしれない。(前)

2019年4月18日 無断転載禁止