忌み言葉

 結婚披露宴の余興で「浪曲子守唄」を歌った伝説を持つ先輩がいた。1960年代の演歌で「逃げた女房にゃ未練はないが~」と歌いだす。同席していないので、その場の雰囲気までは分からないが、反応に困った出席者がいたと思う▼結婚を祝う席では「別れる、切れる」など縁起の良くない言葉は「忌み言葉」とされ、避けるようにと教わった。この歌詞では言い訳は難しい。受験生がいる場合は「落ちる、滑る」の言葉にも気を付けた。良くない結果を連想させたり、それを願っていると勘違いされたりしないためだ▼この「忌み言葉」のルーツは、新元号の典拠になり注目度が増す『万葉集』時代の「言霊(ことだま)」信仰にさかのぼるという。当時は、同じ「こと」と読む「言」と「事」は連なっているとされ、言葉にしたことは言葉の霊(言霊)の働きで実現すると考えられていたそうだ▼平和や繁栄への願いを込めて名称を決める心理は千数百年を経た今も変わらない。ただ戦時中のように、異論や懸念までタブー視する空気になれば、最悪の結果につながることも歴史の教訓。政治の言葉で、マイナスの事態を連想させない「言い換え」が相次ぐようになると「黄信号」だ▼言葉に重みがあるのは、表裏一体の真実を伴うからだろう。タブーや言い換えに振り回されるな-先輩の伝説が、それを意識しての「狼藉(ろうぜき)」だったのかどうかは定かではない。(己)

2019年4月13日 無断転載禁止