たたら製鉄と人材育成

 ふいごから風が送られるたびに「ゴーッ」と呼吸のような音を上げ、オレンジ色の炎が燃え上がる。日本古来のたたら製鉄で日本刀の原料となる玉鋼を作る、島根県奥出雲町大呂の日刀保(にっとうほ)たたらで今年の操業が始まった▼3昼夜、炉を燃やし続ける。砂鉄と炭が投入される炉内でけらが生き物のように成長する。最初は15センチ四方。3昼夜で長さ3メートル、幅1.2メートル、厚さ50センチとなり、重さは約3トン。良質な玉鋼を多く含む▼千年以上の歴史に育まれたたたら製鉄は、首都圏の大手製造会社などに所属する技術者たちの学びの場になっている。「どうして玉鋼ができるのかが分からない。現代技術が追い越せないギャップがすごい」。活動の中心となる日本エンジニア協会の関口隆さんは、ほとんど機械を使わず、技師長の村下(むらげ)らが経験と勘を武器に鉄を作る作業に感銘。4期連続で訪れた▼目的は技術者の育成だ。素晴らしい技術や科学は社会を豊かにする半面、使い方を誤れば人類破滅の契機になり得る。たたらは鉄を作るだけでなく、鉄穴(かんな)流しで砂鉄を採った跡地を棚田に再生。鉄と農林業が循環する暮らしを育んできた▼奥出雲と雲南を舞台に技術者の倫理観、価値観を高めて、大局に立った自然と人類との繁栄調和への道を考える。持続可能な社会をつくる視点を学ぶ現場にふさわしい。首都圏から提起される有意義なたたらの生かし方に違いない。(道)

2019年2月4日 無断転載禁止