第4部 識者に聞く (3)原 武史氏(放送大教授)

在来線利用者にしわ寄せ/地元の意識共有が必要

原 武史氏
 山陰両県で新幹線が整備された場合、先行例から見て、並行して走る在来線はJRから分離され、自治体などが出資する第三セクターに移行される見通しだ。政治学者の傍ら、鉄道を研究する放送大の原武史教授(55)は「在来線を利用している人に不利益が生じる可能性がある。並行在来線の課題解決なしには成り立たない」と、新幹線整備に慎重な立場を取る。

 -山陰両県でも、新幹線整備に向けた機運が高まっている。

 「高度経済成長期と違って、新幹線をどんどん作ればよいという時代ではない。仮に山陰で整備された場合、並行在来線が三セク化される。東北新幹線の盛岡以北や北陸、九州両新幹線を見ると、三セクになれば運賃値上げやコストカットが行われる。学生や高齢者ら、日々利用している人にしわ寄せが来る。新幹線整備により関西や東京とつながる狙いがあるにせよ、犠牲を払ってまで必要かどうか。地元でどれだけ意識共有されているのか。長い目で見て、本当に新幹線が必要かどうかは疑問だ。リニアを山陰に延伸しようという考えも同じだ」

 -新幹線が整備されなかったことで、地域間格差が生じたという指摘もある。

 「整備されないから衰退したという議論は短絡的ではないか。一つの例は大阪だ。東海道新幹線が整備されたことで、逆に大阪は衰退したと言える。それまで『天下の台所』と言われていたが、新幹線開通によって東京が独り勝ちする構図が生まれた。大阪に本社を置いていた企業が東京へ移るストロー現象が働いた」

 -新幹線を起爆剤に、人口減に歯止めを掛けたいという思いが地方にはある。

 「地方では鉄道の衰退が進んでいる。特に北海道は深刻だ。そういう状況で新幹線整備だけを進めようという発想は理解できない。そもそも今の在来線を十分に生かし切れておらず、そこから手をつけるべきだ。鉄道は財産。山陰線には素晴らしい景色があり、木次線には全国的にも珍しい3段スイッチバックもある。鉄道マニアでなくとも魅力を感じるはずだ。国はインバウンドに力を入れている。日本を訪れる外国人にとっても、足を運びたくなる場所だろう」

 -在来線の魅力を高めるには、何が大事か。

 「地元の利用者だけを見ていては、じり貧になる。外から人を呼び込むことをもっと考えるべきだ。昨年、運行開始したJR西日本の豪華寝台列車『トワイライトエクスプレス瑞風(みずかぜ)』が人気だ。同様にJR東日本の『トランスイート四季島』、JR九州の『ななつ星in九州』も成功している。新幹線と違ってスピードが速いわけではない。きれいな風景を見るために多くの人が利用している」

 「一方でお金を掛けなくても、在来線に乗れば同じ風景を見ることができる。(岩手県を走る)三陸鉄道が『お座敷列車』などさまざまな企画を展開して人気を呼んでいる。それと同じことが、山陰の在来線でもできるはずだ」

 はら・たけし 東京都出身。早稲田大政治経済学部卒。明治学院大国際学部付属研究所所長などを経て、2016年から放送大教授。明治学院大名誉教授も務める。専門は日本政治思想史。鉄道研究でも知られ、著書に「鉄道ひとつばなし」(講談社現代新書)などがある。横浜市在住。

2018年10月6日 無断転載禁止